2010年9月12日日曜日

プロケー


老朽化しほとんど聴かなくなっていたビクターのアンプ「A-X7D」、ソニーのCDプレーヤー「CDP-501ES」、オンキョーのスピーカー「D77RX」を廃棄または人に譲り、買い替えることにした。

そこで、滅多に読まないオーディオ誌を買ってみた。うーん高級品ばかりが美しい写真入りで紹介されている。ほとんどが数十万円~数百万円だ。

そしてメインは、各メーカーのフラッグシップモデルだ。芸術品のように光り輝く最高級のオーディオ装置が、カラー写真と評論家の絶賛記事で数ページに渡って紹介されている。さらに、これを特注のオーディオルームに所狭しと並べているお金持ちのユーザーや評論家が紹介される。

憧れも束の間、ああオーディオはお金持ちの道楽だ。貧乏庶民が手を出すものじゃないと暗い気分になる。

ところが、数百万円もするフラッグシップモデルを見せられた後に、数十万円の機器(これも十分に高級だ)のページを見ると、不思議なことに、数百万円は無理だけど、数十万円なら何とかなるかもしれないと思えてくるではないか。

自分が貧乏庶民であることを忘れ、音質の良いものは高くて当然、せっかく買うなら安物より高級品と思い込んでしまう。そうなると、もはや十万円以下の機器は、音質の悪い低級品にしか見えなくなる。

貧乏庶民が、オーディオ誌の罠(?)にまんまと嵌り、国内有名メーカーの40万円のアンプと、ペアで80万円の欧州有名ブランドのスピーカーを買うことに決めてしまった。

秋葉原とお茶の水の間にある超高級オーディオショップに恐る恐る入る。店員は無視し声も掛けてこない。すでに貧乏庶民と見破られたか、常連の金持ちしか相手にしないのかと思いつつ、こちらから店員に声を掛けた。嫌々こちらにくる。面倒くさそうに、あれこれ聴かせてくれるがまるで売る気がない。

目当ての機器をいろんな組み合わせで聴いたのだが、どれを聴いても、少しも良い音に聴こえないのだ。フロアーが広すぎて音が拡散してしまうのか、周囲の雑音が影響しているのか、とにかく大したことがない。

あまりに酷いので、別の店に変えた。今度は、店員が直ぐに寄ってきて、お目当ての機器を鳴らしてくれた。しきりに、いい音でしょうと同意を求められる。この店は狭い場所に所狭しと機器が並んでいるが、やはり大した音がしない。その後、1か月ほどかけていくつも回ったがどこも同じだった。

高級オーディオに期待し過ぎなのかもしれないが、高級オーディオも全てが高音質とは限らないのではないかと感じた。自分の部屋に持込み、じっくり聞けば分るのだろうが、買ってみないと音がわからないということだ。ようやく冷静さを取り戻し、とりあえず今回の購入は中止することにした。

音質の判断は、自分の耳だけが頼りだ。客観的な基準もない。良い音は人それぞれ違うと思うし、たくさんの音を聴き経験を重ねることで耳も肥えていくのかもしれない。

いすれにしても、自分の耳で判断できない素人は、オーディオ誌のこの道何十年の評論家や専門家の意見や評価に多大な影響を受け、高級品=高音質と思いこみ、高級品なら間違いないと思い込む。

しかし、高級品=高音質(低級品=低音質)というのはほんとうだろうか。高級品にも良し悪しはあるのではないか。メーカーが安物を張りぼてで誤魔化しているかもしれないし、失礼ながら、評論家や専門家がメーカーから謝礼を貰い提灯記事を書いているかもしれない。本当に信用できるのか。

オーディオ・メーカーは、数百万円もする最高級のフラッグシップモデルを開発し、これをオーディオ誌が大々的に取り上げ絶賛する。しかし、そもそも何百万円もする機器がそれほど売れるはずはないのだから、メーカーの本当の狙いは、フラッグシップモデルの流れを汲むと宣伝される1ランク下の高級品だと思われる。

金持ちと貧乏庶民は別として、中級庶民に、フラッグシップモデルは欲しいが数百万円は高すぎる、でもその下のランクなら何とかなるかも、と思わせるのがメーカーのマーケット戦略だ。当然ながら低価格品に流れないよう、低価格品の品質や音質は抑えておく。いい音を聴きたければ高級品をどうぞといった仕組みなのだ。

しかし、アナログ・オーディオの中身は、抵抗やコンデンサやコイルやICチップなどのどれも1個数十円~数百円の電子部品だ。これが何百個使われようとせいぜい数万円程度で、10万円にはなっても1百万円には到底なりえないと思う。

また、回路の設計などに莫大な研究開発費をかけているようにも思われない。先人達の築き上げた技術を元に、多少の改良を加えて手直ししているに過ぎないように思われる。

部品も安く、研究開発費もかかっていないのなら、メーカーが高音質のオーディオを低価格で製造するのはいとも簡単なことだ。

しかし、大手メーカーは、自社の利益だけを確保すればいいのではない。販売店やオーディオ誌まで含めた業界全体の利益も上乗せしなければならないのだ。従って価格は高くならざるを得ない。

家電メーカーのように、巨大市場を背景に、巨額の技術開発費を投入し、最先端技術を搭載した製品を、量産効果でコストダウンし低価格で販売するといった荒技は、ニッチ高級オーディオ市場を相手にするオーディオ業界には、不可能なことだ。

オーディオ企業が、利益を出し生き残るためには、安価な部品と償却の終わった枯れた技術を使い、高級品は高音質に、中級品はそれなりに、低級品は低音質にといった作り分けをして、価格を維持することが絶対に必要なのだ。

これが市場原理であり、誰も第二のサンスイにはなりたくないのだ。オーディオ業界を批判するつもりはない。むしろ、なんとしてもこの厳しい不況を生き残り、いつの日か、安くて音質のいい製品を沢山の人に提供して欲しいと思う。

こうして見てくると、利益をあげることを考えなければ、安くて高音質なオーディオを作ることは、決して難しくないことがわかる。実際に沢山の自作マニアが安くて高音質な装置を自作し楽しんでいるではないか。

大手がだめなら中小ならどうかと思うが、安くて高音質な製品を作っても、知名度がなく、大きな広告宣伝費をかけられないため、数を売ることは難しく、結局、高級品を売るしかないと思われる。しかし、高音質が評判となり口コミやネットで広がり数が売れれば可能性はある。実際に、そうした中小企業がいくつか出てきている。

面白いのは、ピュア・オーディオ以外の世界に目を向けると、安くて高音質な製品が結構あるのだ。同じオーディオメーカーが製造しているが、AVアンプは安価で高音質だ。iPodやウォークマンなどの携帯プレーヤーも高音質だ。探せばもっといろいろあるのではないか。(鍵はデジタルアンプかもしれない。)

そして、いろいろ探しているうちにプロケーブルのサイトに出会った。

アクの強いサイトで、高級オーディオは地獄だ、高級でなくとも最高の究極の良い機器があると断言している。そして多くのユーザーの賛同の声が紹介されている。思い込みが激しく言い過ぎ感はあるが、一理はあると感じた。

もし本当に良い音がするなら試してみる価値はある。ダメでも高級品に比べ出費は小さい。

・パワーアンプ「CROWN/D-45」¥63,800
・スピーカー「Eelectro-Voice/FORCEi」¥77,200(ペア)
・ミキサー「アレン&ヒース/Xone:62」¥134,700

最初に サラボーンのスターダストを聴いた。元々、あの出だしの高音が耳にうるさくあまり好きな曲ではなかったので、この曲がどう変わるのか聴いてみたかったのだ。

ほんとうに驚いた。うるさく感じた高音が瑞々しく余裕を持って聴こえる。聴いていて気持ちがいい。この曲がこんなに良い曲であることを初めて知った。サラボーンの声が心地よくこの曲が大好きになった。

いろんな曲を聴いていくうちに、CROWN/D-45は、癖がなく繊細で透明な音を出す良機であること、アレン&ヒースは無い方が音に力を感じること、そして音が檄変した最大の要因は、FORCEiであることが分かってきた。


FORCiの38cmウーハーから出る音は、引き締まった低音だけでなく、一瞬にして中音域に奥行きと厚みが加わり、音全体に広がりと余裕が生まれ非常にゆったりと聴こえてくる。軽自動車ではなく余裕のある3000ccクラスの車に乗った感じだ。ホーンも繊細で美しい高音をしっかりと出している。

いわゆるピュア・オーディオ系のスピーカでなく、野外で使うPA系のスピーカーだ。見た目は野暮ったくエレガントさはないが、音質的には非常に良いスピーカーだと感じる。

騙されても勉強と思って目をつぶって買ってのであるが、実際に低価格で高音質であった。よくこうした機器を見つけたものだと感心する。ただし、自分には合わない物(アレン&ヒース)もあったし、買おうと思わない物(スピーカースタンド)もあった。

音質は人それぞれ。自分で聴いて納得すればそれがいい音だ。そうした意味では、プロケーの言うことを鵜呑みにするのは危険だ。

プロケーの機器が低価格かつ高音質であっても、世の中には他にも沢山の安くて高音質の機器はある。究極や最終形でないことは間違いのない事実だ。

行き過ぎた表現さえ改めれば、貧乏庶民の味方としてもっと広く支持されると思うのだが。高級オーディオが君臨する業界の中で、貧乏庶民がオーディオを考える一つの視点を投げかけていることは評価に値すると思う。

なお秋葉原に行けない地方の人間が、リーズナブルなケーブルを調達するには非常に便利だ。ケーブルは今だにここを使っている。

2 件のコメント:

  1. PCM DSD変換で検索していたら、このブログに出会ってしまいました。
    内容拝読させて頂くと興味深い記事ばかりで楽しませて頂きました。
    また、ちょくちょく寄らせて頂きます。

    Procableに対する冷静なコメント楽しく読ませて頂きました。
    このお店の一番の注意点は、ケーブルの「ハンダ」の仕上がりだと思います。
    リーズナブルでオーディオ用ケーブルには、高価なものばかりでなく「プロ」御用達の我々のしらないケーブルがあることを教えてくれたのは有り難いのですがハンダ品質が悪くブリッジなどしているのには驚きました。
    ハンダは有資格作業で難しいものです。
    そこの製品品質を上げて頂けると更によいお店になるのですが…。

    お店の毒舌は、まぁ毒舌として聞けばいいと思ってます(笑)

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  2. Nallyさん
    随分古いブログにコメントいただきありがとうございます。

    最近はケーブルも自作しているのでプロケーは随分ご無沙汰してます。本当にプロなんでしょうかね。

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